娘との楽しいひととき [洋子さんへ]
一番下のノンちゃんは嬉しいことに私と同じ沿線に住んでいますので、お夕飯をご一緒にすることができます。最近は1ヶ月おきくらいにあってくれます。殆ど実の娘状態で、することなすこと可愛い。と言ってももう30代後半なんだけど。
先日もレストランで鴨鍋なんぞをたべたのですが、メニューのまとめや、みんなの飲み物などのチェックはもとより、鍋奉行もこなしてくれて、本当によく気がついてくれます。
そのあと、近所にすむボーイフレンドの自宅にみんなで行って二次会。その時も本当によく気がついて世話をやいてくれました。「ああ、いいお嫁さんになれるなぁ」と昔のおばさん的なことを考えたけど、「いえいえ、決してお嫁に行ってはいけない!」と娘を独占する気になっていました。
お友達は最高の宝物 [洋子さんへ]
今日は洋子さんのお命日。2007年8月14日早朝に天に召されました。
その前日13日の朝お見舞いに行ったときはすでに意識は無く、深く眠っていらした。足をさすりながら彼女に「ありがとう」と話かけていました。ご家族がお見えになったので、「さよなら」と手を振ってわかれた。それが最後。
今でも私には洋子さんがいます。困ったとき、道に迷った時「こっちに行こうと思うの・・・」と彼女に聞きます。何もいってはくれないけれど、彼女が悲しそうな顔をしないようにしたいと思っています。
そして洋子さんに話しかけます。「私お友達を大切にするわ。だってあなたと別れた時あんなに悲しかったのだもの。後悔しないようにするから、応援してね」と。
洋子さんのお見舞いに行くために購入した定期券。たった5回しか使わなかったけれど、今は私のお守り。その定期券を取り出して・・・・涙を流している私。会いたい・・・・・。
私の人生で一番の宝物は洋子さんです。たとえ今この世にいなくても。
お友達を大切にしましょう。
願い [洋子さんへ]
はるか昔、1年に1回洋子さんと国内旅行をしたことがあります。そのうちの1回は長野の温泉で、川にかかる橋に屋根があってその冬の景色が素敵だとのことで1泊で行きました。3月でしたので、もう雪はないけれど、山の木々が新芽をたたえているせいか山全体がピンク色にうっすらと染まっていて美しかったのを覚えています。
川辺にある共同温泉の前に、祈りの言葉を書いた木札がいっぱいかかっていました。その中に「助けて下さい。私の大切な人が病気です」と書かれた真新しい祈りの木札があって、洋子さんと私はしばしその前に佇みました。ふたりとも「恋人への思い」だと思っていましました。
それから何ヶ月かたって、洋子さんに会った時、「あの木札の人の大切な人って友達だとおもう」と彼女がいったの。そう、私もそうおもった。
この一連の記憶はなぜか強烈で忘れることがなかったわ。あの木札に祈りを書いた人と相手の方はどうしたのか、どうか病気が癒されているようにと、おもったものです。
なんとそれから十数年後洋子さんと私の上に全く同じ事がおきました。私は「神様お願いです。私の大切な人が病気です。助けてください」と何度も何度も祈りました。そのたびに洋子さんと見たあの新しい木札を思い出していました。祈りは虚しく洋子さん8月14日天国に旅立ちました。そしてそれからもう6年が過ぎました。私の定期券入れには洋子さんのお見舞いに通うための定期券が今も収められています。たった5回しか使わなかった定期券が。
七夕で短冊に願いを書きます。でも、私には個人的にはなんの願いもありません。 「みんなが幸せでありますように」とででも書きましょうか。
あれから1年(私的な記念日) [洋子さんへ]
2007年6月1日、洋子さんの大好きな(もちろん私も)チャイコフスキーの「偉大なる芸術家の思い出」を聴きました。久しぶりの彼女とのお出かけ。終焉後「やっぱり素晴らしいわね。」「泣きそうになる」などと感動を語り合いました。
それが私たちにとって最後のコンサートの思い出となるなんて、想像もしていなかった。それからたったの2ヶ月半で洋子さんは帰らぬ人になりました。「もし、その日が最後だとわかっていたら・・・」、後悔はありません。1年たって振り返ってみて、私たちは様々な制約があっても、その時その時を精一杯楽しんで生きていたと思うから。
洋子さんをしのび、いただいた友情に感謝し「偉大なる芸術家の生涯」を聴いています。
ブラームスピアノコンチェルト1番 [洋子さんへ]
今日はNHK交響楽団定期演奏会Cプログラム。ブラームスピアノコンチェルト1番とベートーヴェンシンフォニー5番。
演奏会に出かける前に、先日天国に召された洋子さんのご家族から七七日の法要を終えたのでと手紙が来ました。
そのお手紙に「釋尼光洋」と書いてありました。
私はあわてて手紙を閉じました。
ブラームスを聴いている間中、その四つの文字が私をたたきのめす。
どうして? どうしてそんな名前になるの?
ブラームスは暗く切ない痛ましいような魂の叫びとなって私の胸に鳴り響きます。
傷口を覆っている包帯から血がにじんでくるのが見えるよう。
洋子さん [洋子さんへ]
14日朝ご主人からのお電話。「今朝・・・・」
覚悟はしていましたが、涙で声が出ない。
ベランダの窓から空を流れる雲を見て半日すごしました。
何も考えていなかった。
それから今日で3日? いつなのか何曜日なのかパソコンの日付でしかわらかない。
洋子さんにお花を送るためと朝晩お花に水をあげるだけしか外にもでなかった。
そういえば、今日は洋子さんのお通夜です。
四角い箱に入れられた洋子さんには会いたくありません。
洋子さんは私の中に生き続けていますもの。
通院するために購入した定期券を眺めました。あと20日も残っているのに・・・。
見て貰いたいと用意していた小さな本を見ています。
「私のたいせつな友だちへ」綺麗な絵本です。
洋子さんがトスカーナから私に送ってくれた絵はがきを見ています。
二人とも大好きなフラ・アンジェリコの「受胎告知」。
私たちはその1枚の絵に逢うのを目的にしてトスカーナに行ったのです。
二人だけで行ったはじめての海外旅行。そして最後の・・・・。
絵はがきに書かれた文字は中学時代と少しも変わらない、優しいまるみをおびた文字です。
「気品に満ちた美しさは決して忘れることはないでしょう。トスカーナの休日と共に・・・・
心からありがとうを!」
洋子さんは翼を羽ばたかせて、自由に空を駆けている。
もう、私の目では捉えられないけれど・・・・・。
ひまわりのようになって [洋子さんへ]
洋子さん
一昨日はベッドから下りてトイレにも行けました。
ソファーに腰掛けてお嬢さんをニコニコ見ていらした。
昨日はトイレに行くには車いすが必要でした。
でも、私とお嬢さんが話しているのを聞いていて、ちょっとお話しもしました。
今日、あなたは何度か薄く目を開けたけれど、何も見えていないようでした。
そしてすやすやと眠り続けていました。
静かに足をさすりながら、心の中であなたに語りかけ、祈っていました。
午後、看護婦さんが身体を拭いて、足を洗って下さいました。
そして、看護婦さんから「おむつを買ってきてください」と言われました。
あなたには何が聞こえていますか?
何が見えていますか?
すっかり黄色くなったあなたは、ひまわりのようです。
さようならと手も振ってはくれませんでした。今日は・・・・。
あなたへ [洋子さんへ]
あなたは緩和ケアの白い部屋に横たわっている。
「このベッドは水が入っていて、じょくそうができないですって。
きもちいいのよ。」
という。
寝たままでお庭の風にそよぐ木々を、ピンク木槿の花を見ている。
「いいわね。緑ってほんとうに。」
という。
「大丈夫、昨日はぐっすり眠れたので、今日は気分がいいの」
という。
1日に、お椀に半分のおかゆと、小さく切ったくだもの。そしてお茶やお水が少し。
美食家のあなたはそれしか食べない。大好きなコーヒーも今は飲まない。
そして幸せそうに微笑んでいる。
「ありがとう」 帰る私に、半分になってしまった細い手を手を振る。
緩和ケアの病棟は僧院のような静けさに満ちている。
夜あなたは一人で何を見ているの?
あなたを失いたくない。