あなたへ [洋子さんへ]
あなたは緩和ケアの白い部屋に横たわっている。
「このベッドは水が入っていて、じょくそうができないですって。
きもちいいのよ。」
という。
寝たままでお庭の風にそよぐ木々を、ピンク木槿の花を見ている。
「いいわね。緑ってほんとうに。」
という。
「大丈夫、昨日はぐっすり眠れたので、今日は気分がいいの」
という。
1日に、お椀に半分のおかゆと、小さく切ったくだもの。そしてお茶やお水が少し。
美食家のあなたはそれしか食べない。大好きなコーヒーも今は飲まない。
そして幸せそうに微笑んでいる。
「ありがとう」 帰る私に、半分になってしまった細い手を手を振る。
緩和ケアの病棟は僧院のような静けさに満ちている。
夜あなたは一人で何を見ているの?
あなたを失いたくない。
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